書 籍

よくわかる日本の城

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ちょうど改訂版が出る直前のタイミングだったので、新しいモノに切り替わってから購入。日本城郭検定参考書とあるとおり、ホントに勉強に使うブ厚い参考書のようです。もちろん城郭検定を受けるつもりはないので、【第一章 古代の城】から始まる歴史編を読み飛ばしてもいいのですが、趣味のお勉強なので順を追ってきちんと学ぶことにしました。とは言え、あまりにも情報量が多すぎて持て余し気味。これも名城の石垣図鑑同様に小和田先生監修の本でした。

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呪われた町

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30年ぶりにもう一度読もうと、とっくにドナドナしてしまっていた『呪われた町』(記憶にないけど当時は集英社から出版されていたらしい)を改めて買い求めました。細かなストーリーはまったく憶えていないのですが、当時はたしかに「これは名作だ」と感じたはずのこの作品を、今さらもう一度読んでみたらいったいどんな感想になるのか、自分に興味津々でした。スティーヴン・キングの作品のなかでも最も初期に書かれたものですが、こうして改めて読んでみると、訳者の違いかもしれないけど、かなりシンプルなあっさり醤油味、でもあとからじわじわ来るスープのラーメン…そんな作品でした。ノリノリで書きまくるスプラッターないつものキング節とは、少し趣きが違います。

日本でも小説や映画の題材としてよく登場するような濃厚で閉鎖的な人間関係が、ある人には居心地よく、またある人は半ば諦めて暮らしている、そんな田舎集落のアメリカ版とも言える一見長閑な小さな町で、現代にあの吸血鬼が降臨するというド直球のあらすじ。田舎に住む「はた目には親切そうで実は邪悪だったり、ふしだらでどうしようもなく無気力なおとなたち」と、キングお得意の「聡明で純粋なこども」の対比を描きながら、小さな町が夜を重ねるごとにじわじわと吸血鬼に侵されていく様子は、キングならではのジトジトじわり感も相まって、やっぱり怖いです。十字架や聖水といった対吸血鬼アイテムは、キリスト宗教観の有無で感じ方も違うのかもしれませんが、「地方によくある、なんにもない寂れた小さな町」を構成する人々が、ひとり、またひとりと、ひっそり消えていく不気味さ…。単純に「正統派のドラキュラものが読みたい」と思ったときには、このキング版吸血鬼がオススメです。

この懐かしい『呪われた町』に触発されて、もう一度読んでみるかと『シャイニング』、そして未読の続編『ドクター・スリープ』も合わせて購入してしまいました。

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名城の石垣図鑑

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3月22日付の中日新聞に、犬山の瑞泉寺へ移築されていた城門が420年ぶりに美濃金山城に戻されたという記事がありましたが、この記事のなかで広島大の三浦正幸教授が、「これは日本に現存する最古の城門だ」と太鼓判を押していました。さらに、同じ紙面に並んで掲載された記事で、静岡大の小和田哲男名誉教授が犬山で講演し、美濃金山城から犬山城への天守移築、いわゆる金山越しについて、「1537年の犬山城築城時にあの天守が建てられたというのは間違い。この頃にあのような高層建築は存在しない」からと、金山越し支持を表明したとありました。

実は春先くらいから、そろそろ本腰を入れて城めぐりをやってみようと真剣に猛勉強しているのですが、日本の城郭について解説するYouTubeや書籍でお世話になっているのが偶然にもこのおふたりでしたので、記事を見たときに「おぉ~!城の師匠の談話がふたり並んでる!!」と、なんだかうれしくなりました。『名城の石垣図鑑』は、その小和田先生の著書。とてもわかりやすく書かれていて、石垣についてきちんと学べます。廃城・取り壊し・空襲・火災などで現存しないことも多い天守や御殿、櫓などとは違い、昔のままの姿で保存されている石垣や土塁。地震で崩落した熊本城が、今後何十年かかってでも石垣を元通りに積み直すと頑張っているのもわかるような気がします。いろいろと知識を得たうえで改めて城跡をめぐってみると、とても面白いです。近ごろでは近所の公園の石垣にも目を奪われるようになってしまいました。

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2006年頃に購入した2枚組DVDも、久しぶりに引っ張り出して勉強しています。映像サイズとか画質とか、かなり古くさい感じは否めないのですが、ありがたいことに、火災で消失する前の首里城や地震で崩落する前の熊本城の姿が撮影されていますから、今となってはこれはこれで貴重な映像集なのでした。

学校の勉強はイヤイヤだったし、仕事の勉強もシブシブでしたが、趣味の勉強はウキウキですわ。誰でもそうでしょ??

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トム・ゴードンに恋した少女

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久々のスティーヴン・キング。これは2000年頃に書かれた作品で、実在する大リーガー、トム・ゴードンの大ファンである9歳の少女の物語です。とはいえ、現役リリーフピッチャーのゴードン選手との微笑ましい交流が描かれているわけではなく、ふたりの接点といえば、彼女が愛用するレッドソックスのキャップに記されたサインくらい。(いったいどんな話なんだろう…)と予備知識もないままに読み進めていくと、カナダとの国境にある深くて広大な森の中で、家族とはぐれて遭難した少女の過酷なサバイバル。腹を下してクソまみれになったり、蜂や虻に身体中をボコボコにされたり、これはもう、主人公が9歳の少女だから読み進めるけどさぁ~…となるわけで、おっさんが主役だったらとにかく汚い!汚い!ゲロとグロのキング節は、ここにも健在です。

各章が試合のように〈四回裏〉とか〈七回の休憩〉とかで刻まれていく意味はナニ?と思いながら読んでいましたが、〈九回裏リリーフエース登板〉でなるほどね、と。そしてエンディングの〈試合終了〉でバラバラだった家族もチーム一丸となり、とっておきの決めポーズに「ステキやん!」となるわけですが、しかしこんな強靭な9歳、いるかな??

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ポップ吉村の伝説

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秘蔵の文庫本を、久しぶりに読み返しました。《ポップ》とは、終戦後に地元福岡に進駐してきたオートバイ好きのアメリカ兵たちが、吉村秀雄氏のことを親しみをこめて呼んだ「おやじさん」を意味する愛称です。

これは意外と知られていないことですが、1970年頃までのヨシムラは四輪のチューンも手がけていました。あのヨシムラサイクロン、集合管も実は元々四輪用マフラーとして誕生したものです(蘊蓄エピソード)。私も、CBR400Fやゼファー1100にはヨシムラを、CBX750FやCB1000SFにはモリワキのマフラーを装着していましたが、この本ではそんなマフラーの話にはちょっと触れる程度。ポップ吉村が九州の町工場のおやじから世界的チューナーとして世界に名を馳せるまでを、実に丹念に追ってくれます(ただし「…なのである」を乱発する文章はややクセが強いです)。

有名な話としては、自社の技術者よりもエンジンパワーを絞り出してみせるポップに驚いて教えを乞うたはずのホンダが、やがて自信を深めるにつれポップを冷遇していく身勝手なさまや、『俺は中小企業のおやじ』にもチラリと登場し、私たち世代のファンにはスズキの顔としてよく知られているあの横内悦夫氏との出会いによって、ヨシムラとスズキの関係が深まっていくエピソードもちゃんと登場します。そして、横内氏が第1回の8耐参戦を想定して作り上げヨシムラがチューンしたGS1000が、人員も予算も桁違いのホンダワークスを打ち負かして8耐優勝するところまでがメインで、その時系列のなかに、娘夫婦がポップに勘当されたときに鈴鹿に立ち上げたモリワキのこと、ヨシムラやモリワキ出身者としてGPライダーになっていくシュワンツやガードナーのことなどが紹介されていきます。また、8耐にカワサキZ1で参戦していたモリワキチームのピンチになけなしのGS1000用スペシャルドライブチェーンの提供を決断した、スズキ横内氏のエピソードもなかなか感動的です。

巻末にも「if」が書かれているように、情熱と執念と狂気のキャラ被りな本田宗一郎氏と吉村秀雄氏は、まさに似た者同士。もしも1960年代からのホンダとの関係がずっと良好なままだったら、その後のヨシムラはどうなっていたのだろうという妄想や興味は尽きないのですが、四輪二輪問わず、スズキというメーカーのファンが読んでも面白い一冊だと思います。

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小牧・長久手合戦

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『小牧・長久手合戦 秀吉と家康、天下分け目の真相』。書店をブラついていてふと目に留まった新書です。地方の書店減少がニュースになっていて残念ですが、こういう出会いはリアル本屋ならでは。Amazonの「あなたにオススメ」ではありそうでナイんです。

著者も書いているとおり、小牧・長久手の戦いは歴史の教科書でもサラリと流して終わりの出来事で、司馬遼太郎などの歴史モノ作家もこの戦いをメインにした作品は書いておらず、地元の歴史でもあるのに個人的にもずいぶん薄い印象でしたが、これを読むと信長亡き後の混乱が関東から四国にまでたちまち広がる様子や、信長に虐げられてきた恨みが各地から噴き出し、それらを取り込むための調略や裏切りが全国規模で同時進行していたことがわかって、非常に面白い一冊です。登場人物がやたらと多いし内容もとにかく濃厚なので、読み進めるときは真剣モードでしたけど。

書店では最初に見かけたときから平積みだったのに、たちまち残り一冊となっていたのはやはり地元だからなのでしょうか。木曽・東濃・尾張・三河各地域の馴染み深い地名が登場するのですが、それぞれの土地の風景や距離感がわかるだけに読んでいても楽しいです。織田信雄・徳川家康側の小牧山城と豊臣秀吉側の犬山城の対峙も、現代の風景でみれば「どちらも濃尾平野にポツンと一軒家ぢゃん」となってしまうのですが、実は当時の尾張地方が堤防で制御されていない木曽三川の暴れっぷりに浸かった湿地帯だったために大軍で移動できるルートは限られていたと知ると、「なるほどぉ~」となるわけで。昔よく遊びに行っていた同期の実家が小牧山城の河川交通網《舟津》地区だと書かれていたり、長久手に向けて小牧山城を出撃した信雄・徳川軍が味鋺~朝宮~勝川~下条~龍泉寺~岩作と進んでいく様子が、土地勘があるだけに妄想ざんまいの脳内VR状態だったり。

北は上杉、東は真田や北条、西からは毛利と長曾我部、甲賀・伊賀者や一向宗、水軍や雑賀・根来衆と、歴史小説にも登場する集団が、全国各地で入り乱れて半年以上も戦うさまは、一堂に会したったの6時間で雌雄を決する関ケ原の戦いのような、わかりやすく勇壮な景色は醸し出さないのですが、連絡手段が狼煙と手紙しかない時代にそれぞれの思惑で動く覇権争いのひとコマひとコマとして、まさに天下分け目の戦いだったようです。城郭マニアから見ても、原っぱで行われた関ケ原の戦いとは違って、岐阜城・松本城・上田城・小牧山城・犬山城・大阪(坂)城などメジャー処以外にも、岩村・苗木・妻籠・長島・墨俣・大高等々、現世で各地の自治体が細々と管理保全しているような城跡や砦跡にまつわるエピソードがこれでもかと出てくるので、ずいぶん楽しめると思います。

2021年、関係自治体が【小牧・長久手の戦い同盟】を結成したという報道を思い出しましたが、グーグルマップで城や砦跡を検索してみてもあまり予算をかけた様子はなく、せいぜいノボリ旗や案内看板の設置くらい。スケールの大きい広域な歴史遺構としてあらためて保全しようにも、担当者からすれば「住宅街に埋もれ開発済みの土地を今さらどうしろと??」って感じなんでしょうね。惜しいことです。

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俺は、中小企業のおやじ

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一度は読んでみたいと、かねがね思っていた鈴木修さんの著書『俺は、中小企業のおやじ』。もう書店では手に入らないので、中古本をAmazonしました。出版されたのは、2008年のリーマンショックの頃。1978年の社長就任時に3,232億円だった売り上げを、2006年には3兆円超えにまで押し上げた、その当のご本人が書かれた一冊ですが、昔、『ホンダ神話 教祖なき後で』を読んだときと同じくらい真剣に読みました。二輪・四輪どちらも愛用してきたなかで、こうしてメーカーの歴史やトップのカリスマ性を知る機会を得ると、ますますそのメーカーのクルマや単車に愛着が沸くし、どちらも今でいうところの「ブランドの物語性やストーリー」をトップ自らが体現していく凄みを感じられる書籍です。

中身は、実はインドへの進出が運と偶然の産物だったとか、決して順風満帆ではなかった婿殿の立場での逆襲の社内史とか、ジムニー誕生の秘話とか、クルマ一台あたりの部品点数2万点を分解すればひとつの部品の利益はたったの1円50銭にしかならないとか、工場を動かす重力と光はタダだとか、二輪のHY戦争に巻き込まれてしまった話とか、後継者の早世による波乱とか、まぁ~、どれもこれもホントに興味深い話ばかりです。もう叶わないこととはいえ、願わくば、2000年代のスズキの物語を続編としてもう一冊残していただきたかった、読んでみたかったなと感じます。

2015年に長男が社長に就任したスズキは、2025年発表の中期経営計画において【今後6年間で売上高を8兆円に押し上げる】としています。国内メーカーの世界販売台数ではもはやトヨタに次ぐ2番手ですし、今はヒット連発でイケイケ状態なので、楽しみです。「誰も進出しない国ならイチバンになれる」からとアメリカや中国の市場に依存しなかったことが、こんなにも有利に働く日が訪れるとは、修さんも天国でしてやったりの思いでしょう。「4億人にマイカーが普及したインドには、いまだ手にしていない10億の人々がいる」と鼻息が荒いスズキですので、そのインドに政情不安が起きないことを、スズキファンとして、いちユーザーとして祈っております。

スズキというブランド。『おしゃれなスタバとか映えるスイーツの店とかがめっきり増えてしまったショッピングモールにあって、相変わらず昔ながらの威勢のいい掛け声とともに地道に商売している、庶民的な魚屋さん』。そんなイメージが、残クレ客優先とか敷居の高いお上品路線に転じた他メーカーとの違いを生みだして、今、じわじわとウケている印象があります。

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坂の上の雲 後編

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まことに小さな国が

開花期を迎えようとしている

で始まるNHKドラマ『坂の上の雲』の再放送とほぼ同時進行で、後半の5~8巻をようやく読み終えました。

「そこから旅順港は見えるかっ!?」

1,000名の突撃部隊がたった10名になるのに15分かからなかったという凄惨な203高地攻撃を、ようやく完遂した際に児玉源太郎が尋ねるシーンは、NHKドラマ版でも後追いで観ました。泣けます。

物語の後半部分は、東郷平八郎が率い、秋山真之が活躍するバルチック艦隊との攻防です。この、20年前までちょんまげを結い、粗末な着物を着て草履で歩いていた、小さな猿の群れのような国がバルチック艦隊を撃破するという奇蹟の物語や、前半の203高地攻防戦は、日本人の感情を、ある人は大きく右に、またある人は大きく左へと、さまざまに揺さぶるアブナイ要素が満載ですが、個人的には、対馬沖に到達するまでのバルチック艦隊の大航海の様子にも大いに読み応えを感じました。『坂の上の雲』、当時の世界史と日本史を同時に読むことができる、まるで教科書のような面白さもあります。

日本の軍隊が、陸軍上層部を長州閥、海軍上層部を薩摩閥で独占して群れている様子や、「無能な指揮官がその無能さを隠避するために風紀規律ばかりやかましく言う」等々、現代にも通ずる【組織あるある】もしっかりと描かれていて、だからこその「昭和のサラリーマン必読書」だったのでしょうね。

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全8巻の30年ぶりの再読を終え、NHK版のスペシャルドラマも残り一話というところまで観終えた今、横須賀を訪れたときのことを15年ぶりに思い出しました。NHKドラマの放送はちょうど私が『龍馬伝』を観ていた頃、そしてまさに横須賀を訪れていた頃なのに、当時、まったく観ていなかったのはナゼでしょ??このドラマにおけるVFXの凄みは、バルチック艦隊との戦闘シーンでピークを迎えます。思わず、クレジットの中に山崎貴監督の名前があるんじゃないかと探すくらいの素晴らしい映像でした。明日放送の最終回、愉しみ半分の寂しさ半分です。

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坂の上の雲 前編

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『坂の上の雲』。いつかまた読もうと思い、文庫をずっと手元に残してあったのですが、NHKの再放送に触発されていよいよ再読開始。なにしろ全8巻もある(しかも昔の文庫ったら、極小文字サイズ!)ので一気に読み切ることはできません。まずは、折り返し地点である1~4巻を読み終えたところで感想を。

司馬遼太郎の小説が大好きで、ほとんどの作品を読んできました。なんといってもこの人の真骨頂は≪まるでホントに見てきたかのように描く会話≫だと思っています。源義経や坂本龍馬が、当時、どこで誰とどんな会話を交わしていたかなどということは誰にもわからないわけで、ただ、わからないからとそこに熱量を注がなければ「そんなの、ただの年表ぢゃん」となってしまうところを、司馬遼太郎はその生き生きとした架空のやりとりで登場人物や物語を面白くしたことは間違いないのです。でも、そんな司馬作品があまりにも支持されすぎたせいで、たぶん小説を生業とする同業者やそのとりまき連中でしょう、「あいつの歴史小説はでたらめだ」とか「あんな小説を読んだら日本の歴史観を歪める」とか、かなりの誹謗中傷がSNSなどない時代にも巻き起こっていたそうです。(おいおい、これは小説だし)と言いたいですし、そんなこと言い出したら、今も生きている人物の伝記本しか書けなくなると思うのですが…。

司馬作品のなかでも特に問題視されたのが、「乃木大将を貶めやがった」と非難轟々の、この『坂の上の雲』でしょう。ちゃんと読めばわかるのですが、乃木大将のことは若干ポンコツ気味、しかしとても高潔な人格者として描いています。ゴミだったのは乃木軍の参謀たちであり、日清・日露戦争から太平洋戦争に至るまでの、日本陸軍の在り方そのものがゴミだと糾弾しまくっているのです。司馬遼太郎は実際に従軍してそう感じ、作家としてその経験を語っているのだから、戦後生まれの人間がどうのこうの言うのは的外れだと、まぁ~、当時もきっと誰かが反論していたことでしょうけどね。そもそも、明治天皇崩御に殉ずる死を選んだ乃木大将を軍神として崇めることへの、猛烈な違和感を持つ司馬遼太郎なりのアンチテーゼだったとしたら、どっちもどっちでしょう。

この作品では、日露戦争に陸海軍で従軍した秋山兄弟をその主役に据えていますが、改めて読んでみると兄の好古はかなりの奇人、弟の真之はやや狂人でした。初めて読んだときにはすごい兄弟だと感動したものですが、そもそもこの戦争の勝利は偶然が重なったおかげだったと考えると、当時の興奮もやや醒めた気がします。10倍の戦力と10倍の戦費を持つロシアに対し、精神力と気合いのみを武器に立ち向かうことを強いられ負けたらその時点で国がなくなるという悲壮な日本人の物語が、高度成長期やCMで『24時間戦えますかっ!ビジネスマァ~ン!!』と盛り上がっていたバブル期には上司から部下に薦める必読書とも言われていたらしい、この『坂の上の雲』。今どきの新入社員に読ませたら、「パワハラ宣告ですかっ!」とたちまち退職代行を発動されそうな一冊です。

引き続き5~8巻を読み進めようと思いますが、いいのか悪いのか、NHK版『坂の上の雲』の俳優のイメージで読んでしまいます。そのNHK版は原作にとことん忠実に作られましたが、司馬遼太郎本人は生前、この小説の映像化を断り続けたそうです。とてもムリだと思ったのでしょうね。

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NHK『坂の上の雲』

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『アウトサイダー』を読み終えた時点でしばしのスティーヴン・キング断ちを決心して、司馬遼太郎の『坂の上の雲』を約30年ぶりに読み始めました。今現在、NHKにて放映されているテレビ版を全話観終えてからにしようと思っていたのですが、辛抱堪らず。全8巻ですので、しばらくキングは忘れてこれにのめり込みます。

旅順要塞攻防のシーンで『侍タイムスリッパー』山口馬木也が登場して「おぉ~!」と。うれしくなって調べたら、大河ドラマ『麒麟がくる』『鎌倉殿の13人』にも出演していたとのことですから、この方の演技は観ていたわけですな、今までも。

それにしても、このNHK版『坂の上の雲』。一話あたりの製作費が2億円だったとも言われていて、たしかに映像のクオリティの高さがそこらの映画よりもうんと上で驚きます。原作が大好きなだけに、「NHK?どぉーせチープなドラマにしちゃったんでしょ?」と侮ってリアルタイムで観なかったことを反省しつつ、今回の再放送を真剣視聴中です。

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