ドライブチェーンのメンテナンス。昔から寒い季節がやってくるたびに各バイク雑誌がバイクの冬眠やバッテリーの保護とともに特集を組んでいましたし、今なら、年がら年中YouTubeであーでもないこーでもないと騒がしいわけです。中にはいわゆるチェーンシコに命をかけているような人もいれば、あらゆる新製品を試してみなきゃ気が済まない系の人、はたまた「シールチェーンにルブは不要」と宣言する人など、まさに百家争鳴侃々諤々の状態です。「たかがバイクのチェーンぢゃん」って話ではあるわけなんですけど、愛車の、しかも目に見える稼働パーツなものですから、どうしても「これぞ正解!!」が知りたくなるわけで、その気持ちもよぉ~くわかります。私だってそうでしたから。
いっぽう、「そんなこと、ぜんぜん気にしない」って人も世の中には大勢いるわけで、その昔、私の同期のなかにも「オレのバイクはメンテナンスフリーだから」と訳のわからぬ宣言をしている男がいまして、あるとき、ツーリング中にサビサビのチェーンをギシギシいわせながら立ち寄ったガソリンスタンドで、そのあまりにも酷い音に気づいて気の毒に思ったらしいスタッフから「これ、よかったら使ってください」とグリススプレーを手渡された…なんてこともありました。そいつ、てっきり「メンテフリーなんで」と断るのかと思いきや、いそいそと屈みこんで…。「使うんかぁ~い!!」と全力でツッコみましたけどね。
まっ、趣味の世界の話なんですから、自分が納得いくまで好きなように試行錯誤してみてもいいのですが、なかには「それではタイパがぁ!コスパがぁ!悪すぎる!!」と悶絶する人もいるでしょう。なので、そんな「たいしてこだわらないし、ただこれさえやっとけば間違いぢゃないし安心だってとこを知りたい」というごく一部のせっかちさん向けに、不肖この私が、過去40年以上にわたって続けてきた膨大な時間の無駄とお金の無駄の果てに導き出した結論を教えてさしあげましょう、というお話です。なお、もはやノンシールチェーン使用はごく少数派だと思いますので、専らシールチェーンを前提にして進めていきます。

写真にあるように、
・スプレータイプ~『クレ』『モチュール』『ワコーズ』
・チューブ塗布タイプ~『モチュール』
・シリコンスプレー~『ワコーズ』
・添加剤&潤滑剤系~『ベルハンマー』『スーパーゾイル』
チェーンルブなら、これら以外にもバイクメーカーやチェーンメーカーが純正ケミカルとして出しているものも含めて、様々なメーカーの製品をアレやコレや、試行錯誤の歴史のなかで使用してきました。モチュールから出た歯磨き粉のようなチューブタイプのグリスが出れば即買いしましたし、エンジン添加剤のスーパーゾイルをチェーンのひとコマことコマに一滴ずつ垂らしたこともあれば、シリコンスプレーのみを噴いてみたことも、ベルハンマーだけという状態を試したことだってあります。それらを踏まえて…
【チェーンメンテの結論】
1.チェーンクリーナーとウエスで汚れをしっかり落とす
2.(遅乾性クリーナーならしっかり乾かしてから)チェーンルブを指がピクピクするくらいこまめにひとコマずつ、プレートに挟まれたゴムのシール部分に極少量をワンプッシュ、これをチェーンの左右プレートにそれぞれ一周満遍なく
3.後輪を回しながらチェーン一周イッキにプシュー!!は、明らかにルブのムダ使いであり、ただただあとから飛び散り汚れるだけ(フロントのスプロケカバー内側に積もり積もったゴテゴテのオイル団子を見たら理解できるはず)
4・余分なルブの拭き取りとチェーンプレート上下左右の防錆のために、フクピカで磨く
5.フクピカでしっかり拭き取っても、後日、100kmほども走れば回転したチェーンの遠心力でルブが滲み出てくるので、帰宅したらもう一度軽くフクピカ(このときのフクピカは前回のメンテで使った乾燥したもの ホイールに飛んだルブ汚れもこれで落とせる)
6.次回メンテの目安は、走行距離がおおむね500kmを越えて1000km未満の間に(日帰りツーなら2~3回に一度のペース)
7.雨天走行後はフクピカで拭き上げておいて、ルブが切れているようなら後日改めてメンテ
8.使うチェーンルブは、安価な【クレ】の『スーパーチェーンルブ』で充分(注:ただし『チェーンルブ』ではない)。様々なメーカーから出ているけど、必要にして充分かつ安価なものといったら、この製品に落ち着く。これじゃないといけない理由は皆無、でも、これを使うとマズいとか他の製品に比べてどこかが大きく劣るなどということも、これまた一切ナシ。
【ク レ】
『スーパーチェーンルブ』は、他社よりも安価で体感的にも他社と性能も変わらない。
Amazon等の通販サイトで、セール特価まとめ買いがオススメ。
『スーパーチェーンルブ』よりもさらに安価な『チェーンルブ』(ホームセンター等で見つけがち)は、やたらとネチャネチャしているわりにはまったく定着せず、とにかく飛散がひどいので要注意。
【ワコーズ】
水置換性能や浸透性、防錆性能等、あのワコーズだからという理由で使うも、特に長持ちするわけでもなく、容量が少ないわりに高額であり、「これでなくては」「さすがワコーズ」は特に感じない。
【モチュール】
高粘度を誇るスプレータイプのルブは、メンテしない長距離ツー限定でオススメ。スプレーした直後はサラサラで隅々まで浸透していくが、時間が経過すると強烈なネバネバに変化してチェーンにしっかりと密着する。ただし、まったく飛び散らないわけでもなく、いったん飛び散ったモチュールのルブは、フクピカでもサクッとは除去できないくらいの粘度を見せるので厄介。チェーンクリーナーも通常より多く噴きつけないとスムーズに落とせない。なによりも高い粘着性能が災いして、酷道や険道を走ると、地面から巻き上げた融雪剤やゴミ、埃や落ち葉の破片などがゴテゴテにへばりついて悲惨なことに。
チューブで塗り塗りのタイプは、スプレー式みたいに塗布時に車体やタイヤに飛び散ることもなく、ひとコマずつ丁寧に塗布することができるのがウリだと思われ、(これは画期的だ!)と飛びついたものの、実際に使ってみると、先端のブラシにブチュ~ッと絞り出したグリス状のルブはチェーンの凸凹に満遍なく塗り広げることが難しく、少量では防錆効果も全体に行き届かず、ならばと、チェーンの回転力を利用して走行しながら隅々まで浸透させようと思うとかなりの量を塗布しておく必要があり、そうすると今度は団子状のルブが盛大に飛び散るという結末。今となっては、ほとんど未使用のまま物置に眠らせている、謎の一品。
【いわゆるホワイトルブ】
たくさん噴きつければ左右のプレートも満遍なく白くなるので、メンテナンスをやった感と防錆への効果は見た目からも感じられるが、見た目に反して想像以上に飛び散るし、スプロケカバーの奥がゴテゴテになるだけ。ゴムシールの保護よりもプレートの防錆性能に特化した、ノンシールチェーン時代からの生き残り製品と思われる。
【シリコンスプレー】
ゴムシールの保護ということなら、浸透しやすいし、クリーナーがなくても拭き取れるし、さらには防錆も得意だしということで、「もしかしてこれでいいんぢゃないの!?」的にシリコンスプレーを使ってみたものの、ひとたび走り出せばサラサラがゆえにたちまちすべてが飛び散る。ツーリング前に毎回スプレー&飛び散ったシリコンも毎回拭き取るという作業を前提にするならアリかもしれないけど、長距離ツーにシリコンスプレーはさすがに不安。
【ベルハンマーとかスーパーゾイルとか】
シリコンスプレー同様に粘度は低いので、高価な液体が儚く飛び散る。「金属保護被膜が形成されて残存するから飛び散っても大丈夫だ」と言われても、ホイールやフェンダー裏などに満遍なく飛び散ってしまったサラサラのベルハンマーやゾイルを拭いつつも、(これで防錆・潤滑・ゴムシールの保護が継続できているとは思えないんだけど)という気持ちばかりは拭いきれないという、妙なジレンマに襲われる。
【無給油】
「シールチェーンはグリスをゴムシールで封入しているのだから、潤滑のためのルブはそもそも不要。ただしゴムシールを傷める錆の発生は怖いので、防錆だけは要注意」と聞き、これも実践。フクピカだけでも防錆はなんとかいけそう、でも、ルブなしで5,000km近く走った時点でギシギシという微かな軋み音や、ゴリゴリとこれまた微かに身体に伝わってくる振動が。再チャレンジは怖くてもうムリ。
【余談 : 禁忌行為】
ちなみに、チェーンを傷める最もやりがちな行為は「どぉーせ伸びるから少しキツめにチェーンを張っておこう」。偏伸びするしサスの動きも阻害する。程度の問題もあるけど、張りすぎるくらいなら緩すぎるほうがまだマシなのがドライブチェーン。
経過や各製品の使用感はともかくとして、【チェーンメンテの結論】に書いたことこそが伝えたいことのすべてです。現愛車のW800のほぼ10万キロ走行で使用したドライブチェーン2本をこのやり方でメンテし続けてきて、ここまでなんら問題はなく、トラブルもなく、その経験則に基づいてオススメする、タイパとコスパに優れたチェーンルブ製品とそのメンテ方法です。あれこれ試すのが億劫ならば、ムダにお金を散財せずともこれで充分ですと断言いたします。